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 無職の英雄を一章から五章まで真面目にレビューする企画。現在一章までですが……。追記する予定です。長くなりますが時間があれば読んでいってください。

 ※※ 本記事は無職の英雄のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。


第一章

 本作のエッセンスは殆どが一章に集約されていると言って差し支えないのですが、結論から申し上げますと、ええ、確かに本作に努力の痕跡は存在します。

 これは憤ってらした作者の主張が一部まあ、どうやら、念のため、一応は正しかったという事実で流石に目を見開きましたが全体的に省略されているので甚だ視認し難いのでしょうか。
 本作の努力は事後報告であります。
 一カ月をすっ飛ばし、五年をすっ飛ばし、ダンジョン筋トレ幾星霜といった具合の努力したという過程を省略して結果に辿り着くというパターンが多く特に一章は顕著に思われます。
 個人的には、二章の方が取っ掛かりで苦労している感はややあったかなと。
 
 しかしながら、例えば第20話 副題 『てっきりマゾヒストかと』~21話『努力は裏切らない』

 に於いては、ふむ。が口癖の本作主人公アレル君がひたすら攻撃を食らうことで〈頑丈〉スキルを手に入れようという描写があり、攻撃に永遠と晒された結果どうやらアレル君も思わず苦笑してしまうほど血飛沫が……。というのを百度繰り返したとそれなりの文章量で描写でされます。

 これは明確に努力描写とカウントしてもいいと感じました。なろうでは珍しいレベルの努力です。本当に。(これも残り九十九回は事後報告であり、例えば五十回目と七十五回目とかを挟み二段階ほど進化の過程を見せるといったことをすればもう少し努力感は醸しだせる可能性はありますがこれもテンポを損なう浅知恵かもしれません。)

 さて、次は一章の、というより本レビューの最大の問題キンキンに触れます。
 戦闘描写が稚拙すぎるという指摘で、事の発端になったレビュアーも一巻、つまり一章の感想として以下のように残しています。
  
バトルシーンもひどく擬音だらけの落書き

キンキンキンキン
キンキンキンキン
ガガガガガガガガ、ガキン
信じられないでしょうがこれです

主人公が技名を叫ぶ→キンキンキンキン→勝利 
ずっとこれです。

ラスボス相手にも
主人公が技名を叫ぶ→ガガガガガガ、ガキン→勝利 
これで終わりです

バトル描写など一切ありません
最初の雑魚からラスボスまでずっとこれです。


読了後の感想としてこれ自体には若干の齟齬ないし誇張があり、擬音だけですべてのバトルの決着がつくわけではないのですが、印象的にそのように映るのは些か普通の感性であるような気がしてなりません。これから一章最終版、二つの戦闘スキルの比較をしたいと思います。


 こちらが31話 副題 『早く終わらせたら勿体ないだろう?』より剣帝スキルです。

 *
 

 ふむ。いきなり出してくるな。

 必殺スキルだ。


『おおっと! ゲオルグ剣士! 先手必勝とばかりに、いきなりの大技だっ! 《剣帝》必殺スキル〈エンペラーロード〉ッ! やはり強敵と見たか、最初から全開ッ! 手加減無用だぁぁぁっ! すべてを平伏させる帝王の十六連撃がアレル剣士に襲いかかるぅぅぅッ!』


 ガガガガガガガガガガッ――――ガギィンッ!


『なんとアレル剣士っ、それを完璧に防いだぁぁぁぁぁっ!?』


 なるほど。

 さすが《剣帝》の必殺スキルだ。

 完全には防ぎ切れず、幾つか掠めてしまったな。

 と言っても、加護がほんの1パーセントほど減っただけだが。


『ああ! ゲオルグ剣士、さらに間髪入れずに別の必殺スキルを放ったぁぁぁっ! しかしアレル剣士っ、それも難なく受け止めましたぁぁぁっ!』


「す、すげぇっ!?」

「マジでどうなってんだよ!?」

「あんなの《無職》じゃねぇだろ!」

「けど、さっきから防戦一方よ?」

「《剣帝》にあそこまで攻め続けられたら、攻勢に出るなんて不可能だろ」

「やっぱ《剣帝》の勝ちだな」


 *

 次に一章ラスボス戦 34話 副題 『俺はただの《無職》だ』より剣神スキルです。

 *

 俺は〝神足通〟で距離を詰め、鬼に肉薄した。


「〝インフィニットブレイク〟」

「ガァッ!?」


「ば、馬鹿ナっ……ぶげっ……これハっ……ぶごっ……《剣神》ノっ……ぐあっ……技っ……」


 俺の斬撃を浴びながら、鬼が信じられないとばかりに叫ぶ。

 どうやらこれが《剣神》の必殺スキルだと気づいたらしい。

 伊達に過去に《剣神》に敗れていないな。


「おっ、お前ハっ……がふっ……け、《剣神》なのカっ……あがっ……」


〝インフィニットブレイク〟は一度発動させたら最後、相手を倒すまで連撃を見舞い続ける。

 しかも斬撃と斬撃のタイムラグが極限まで削ぎ落とされているため、反撃は許さない。


「違うな。俺はただの《無職》だ」

「《無職》だト!? ふざ――ぶほっ……けるナっ! 《無職》にこの技ヲ……ばっ……使えるわけがなイっ……ぐはっ……」


 それにしてもさすがは高位魔族だな。

 人間のように女神の加護はないが、その身体の頑強さはまさにあの《剣神》のリビングアーマー並か、それ以上だ。

 すでに四十を越える斬撃をその身に浴びながらも、まだしゃべれるとは。


「がっ……あり得っ……ぶっ……なイっ……………………」


 ようやく沈黙したか。


 ちょうど七十回目の斬撃を喰らわせて連撃を終わらせる。

 剣圧で宙に浮かんでいた鬼の身体が、ぐしゃりと半壊した舞台の上に落下した。


 *


 一瞥しただけではラスボス戦の方は割と書き込まれているように思われても不思議ではないですが
この戦闘描写を大雑把に分解すると本質的には共通することが分かります。
 
 技の説明とその後のリアクションです。それだけです。
 技が放たれてから着弾するまでの省略が平然となされています。この省略という行為自体は間違いなく全編を通して行われている行為であると断言できます。
 結果へ帰着する速度がやはり尋常ではないのです。
 
 先述した文章では、前者はどのように迎え撃って幾つか掠めたのかが擬音で省略され、後者に至っては連撃を食らうに至る過程が完全に丸っきり省かれています。絵が見えてこないわけですね。

 なるほど、バトル描写と呼べるものは確かに存在しないのでしょう。

 しかしながら、私は双方に空白を埋める細かな作業が必要とは思いません。
 無職の英雄のバトル描写、のみならず全体の雰囲気として動画配信者のゲーム実況に近いからでしょうね。
 剣帝スキルを繰り出した際の大仰な実況のシャウトを聞くと「ああ、なるほど、合理的なものだなぁ」と漸くつかめた気がしました。
 この点が個人的には、修正が及びつかない違和感の正体ではないかと。
  
 スマブラ配信が分かりやすい例でしょうか。

 「横スマ当たりましたね、持続長くて強いのでどんどん振っていきます」
  
 本作の戦闘描写の本質はこれだけ簡略化することができるのです。そうして、各々が好きにキャラを浮かべ、情景を浮かべます。なろうの土壌はこの程度には仕上がっていると見えます。

 視聴者にとっては攻撃(横スマ)が当たった事実が重要でありその渦中の水面下の細かな駆け引きを逐一ドヤ顔で解説されたら鬱陶しくなって見なくなる人もいるでしょうね。
 需要はいろいろな方面がありますが、実況だけを楽しむ層の傾向としては顕著ではないでしょうか。
  
 ネットの民が行う修正というのは畢竟、そのあたりの解説を織り込み説教臭くしてしまうリスクが漂う場合が多く、そのせいで確かに小説っぽく、良くなったのには違いないけど、なんか文体が合わないんじゃあないかなとそう思っていたのだろうなと。
 
 小説としてはもう登場人物の動きがワープしているので評価し難いですが主人公の鼻につく語り口調も界隈では十分良識的な範囲ですし実際片手間でベットに転がりながらスマホで読むには丁度よかったです。モブの陰口や主人公最強談義は一人称視点でごっちゃになるので何か言われてるなぐらいにしてもよかったかもしれないですが。
 擬音もそういう意味では急に第三者的な情報が湧くために違和感があることにはあり、無くすとどうにも寂しい気がして判断が難しそうで……実はそう掘り下げる必要性は感じなかったですかね。
 
 良いところ。

 文章は皮肉でなくほとんどが完成系と言えます。
 単行本一巻に詰め込むだけの展開量としては満足感があり綺麗に収まっています。
 切り取り方と締め方が非書籍化作家のスコップ作より素直に上手でした。 



 最後に気になった部分を幾つか。


 〈双刃斬り〉〈神憑り〉

 
この2つのスキルの習得理由についての説明が不足しているように思われます。少なくとも一章の段階ではあらすじに代表される〈怪力〉を筋トレで達成したであるとか、あるいは母親と訓練したから〈剣術・初級〉を上回る剣術の腕があったなど、理論立ててスキル回りの構成をしていたはずですがこの2つは本当にどうやって習得したのかわからなかったです。
 
 〈双刃斬り〉は2か所を全く同時に斬るスキルで〈剣術・中級〉スキルらしいのですが、無職の彼は超高速で攻撃することで再現し、のみならず三ケ所同時攻撃をすら成し遂げたと言います。
 
 前者は同時という概念であり後者は限りなく寄せているに過ぎずどれだけやっても超高速の2連撃にしかならないでしょう。同時攻撃とはこの場合、比喩表現ではないはずです。

 0.1秒遅れているが打ち合えば受けることが出来る剣速だとか補足が欲しかったです。
 完全再現はありえないでしょう。欠片でも劣っている要素があると納得いかないのでしょうか。その差を工夫で埋めるからこそ無職という個性が輝くのではないかと。
 
 *
 余談ですが剣神のスキルである〈インフィニットブレイク〉においては斬撃と斬撃のタイムラグが極限まで削ぎ落されていると説明がありタイムラグが一応存在するらしいのですが【最上級】とされる〈剣神〉のスキルをすら凌駕する【中級】スキルの同時攻撃とは?と疑問符を浮かべざるを得ませんでした。

 本作の剣術スキル最強の考察があれば上位に来そうだなあと。

 〈神憑り〉
  
 これは己の能力を数倍に高めるという技でこれに関しては、もうどうやって再現したのか見当もつきません、説明もありません。体をどう捏ね繰り回して鍛えても単に強くなるだけでしょう。

 敵がスキルを発動して俺も使えると真似たのですが、〈剣神〉スキルならそうかぁと納得もできますが彼の場合は努力の結晶だそうです。 

 鍛えぬいた結果、数倍強くなった相手でさえ上回る力を得たでは駄目だったのでしょうか。
 その段階的なパワーアップは果たして必要だったのでしょうか?
 

 最後に、これが一番気になりました。

 JOJOの奇妙な冒険パロディーのうすら寒さです。 
 女の子が仲間に加わってくれと【土下座】 
 
 「だが断る」

 そこそこ強いらしい剣士の青年が先生と呼ばせてください

 「だが断る」

 九頭七尾先生本人が元ネタを好いているのか卒爾ながら有名なJOJOネタを織り込めばウケるだろうと浅はかな目算なのか一目瞭然で強い言葉を使えば気に障りました。
 
 この可笑しさは元ネタを知っていないと分からないかもしれません。
 漫画JOJOの奇妙な冒険における岸部露伴というキャラクターの名言が元ネタなのですがおそらく先のセリフを加えればその可笑しさがわかるでしょう。

 脅される岸部露伴

 強いと思ってるやつに「No」と断ってやるのです。
 
 彼なりの意地を感じる名シーンであります。

 下手に出た相手に偉そうに使用するのは誤用です。岸部露伴は確かに性根が曲がって難はありますが、弱者にわざわざ鞭を打つような腐った捻くれかたはしてません。

 原作ファンとしては「だが」という接続詞の意味をググってくれと憤りもあります。
 これは本作に限らず、ライトノベル全体の問題ともいえますが。
  
 実はこれが一番、私がこの記事を通して主張したかった事かもしれません。
 安易なJOJOパロはもういい加減に止めてもいい頃合いでしょう。

 若者は元ネタ知らないですよ。弓弦イズル、お前のことだぞ!!!!

 二章は〈無職〉には決して存在するはずのない魔力が何故か概念ぶっ飛ばして発現するところから始まり、ようやく説明放棄を徹底してくれたのでよし何でも有りなんだなと頭を空にして見ることが出来そうです。
 頭を空にできる超能力バトルとか魔法バトルは好きです。余程緻密でなかったらファンタジーは頭ちぇるって渡るぐらいが丁度いいのです。禁書もその系統だというと怒られますかね。
  
 お兄様もよくわからないけど理屈じゃなくて何でもありな感じなんだと分かると小難しさは消えて楽しさが増します。あれです。まだ途中ですが一章より好きです。単に慣れかもしれないですが。

 アレル君、剣極めたから次は魔法ってストイックすぎないか……。彼の胸の内が見えません

 2020 8・30 

 引用:https://ncode.syosetu.com/n6683ej/